引き続き、頂き物のCNCを稼働させようとしています。
前回は古いPC上で動くLinuxCNCを使って試験動作をしてみました。
このPCは随分前にメインPCとして使っていたPentium4-2.8GHz搭載のマザーが載っており、基板切削CNCやレーザー加工機の制御に現役で稼働しています。この頃のPCは普通にパラレルポートが付いていたのでLinuxCNCでの使用に問題はありません。
このPCの後にメインとして使ったのはCore-i5のマザーボードでした。このボードのパラレルポートは直接背面には出てはいないのですが、ボード上にピンヘッダがあり、ケーブルを挿す事で使用できます。本来ならこのボードが現役を退いた後にCNC制御マシンにしたかったのですが、以前このブログにも書いた通りコイツは壊れてしまいました。
CNC制御にはMach3/4やGrblも候補に上がりますが、費用や慣れの問題もあるので、やっぱりLinuxCNCで行きたいと考えました。という事で、HARD OFFで物色するとPentium4 3GHzのPCが¥2900で売られていたので購入しました。
LinuxCNCはバージョン2.7のLiveCDからインストールしました。なおLinuxCNCにはそのPCが向いているかどうかの指標としてレイテンシ・テストがあります。LinuxCNCはステッパーの回転パルスをリアルタイムに生成する為、一定間隔で処理を実行する必要があるのですが、レイテンシが大きいと間に合わなくなるのです。LinuxCNC付属のレイテンシ・テストを実行するとMAXジッターという値が表示されます。ドキュメントによるとこの値が50μSあたりまでならまあまあ良し、100μSを超えるマシンは制御には向かない様な事が書いてあります。
早速このPCで実行したところ直ぐに200μSを超えてしまいました。現用のPentium4-2.8GHzが最大でも55μS程度なので不安視していなかったのですが、ビデオカードを交換してみたりBIOSの設定を変えたりとやっても改善しません。
PC代¥2900円が無駄になるは悔しいので何とかしたいところです。そこで次善の策として考えてたのがこのPCでGrblのコントローラーを動かすという方法です。Grblならリアルタイムの部分はArduinoがやってくれるのでPC側はジッターを気にする必要がありません。BlackIIの制御基板(TRIO)にはサンケン電気のステッパードライバが載っておりこれは活用したいので、Arduino+CNCシールドではなく、ArduinoをTRIOにつないで制御してみたいと思います。
ステッピングモーターの制御信号がDIRとSTEPという基本は変わらないので何とかなると思っています。
そこで実験。
D-SUB25ピンのコネクタはジャンクのマザーから取り外した物です(なので紫色)。TRIOをイネーブル状態にする信号はSN74HC00を使った非安定マルチバイブレータでチャージポンプ信号を入れて動作させましたが、これではGrblが準備できたらONになるという本来の動きはできないので、最終的にはTRIOのJP1をオープンにする事で、単にLに下がればイネーブルとなる制御にしようと思います。
この段階で色々とマニュアルに記載が見当たらない細かいところも試してみました。以下ここまでで分かった事の備忘録
- TRIOのSPINDLE入力はLが回転、Hが停止。
- BlackIIのリミットスイッチ(フォトインタラプタ)は普段はLでセンサーをさえぎるとHになる。
- ArduinoのA0ピン(GrblではReset/Abort端子。内部プルアップされている。)は動作中にLに落とすと動作がキャンセルされて停止する。続きの動作はできず、HOMINGからやり直す必要あり。たぶん非常停止に使える。
- CNCシールドのE-STOP端子は回路図を辿るとArduinoのリセットに繋がっている。
- A0端子で止めてもReset端子で止めても動作は変わらないように見える。
- Arduinoの A1ピン(GrblではFeed Hold端子。内部プルアップされている。)はLに落とすとスピンドルは回ったままステッピングモーターだけが停止する。コントロールソフト(Candleを使用)のステータスにはHOLDと表示され、Pauseボタンを押すと動作が再開する。
- ArduinoのA2ピンはGrblではCycleStart/Resume端子であるが、これをLに落としても特に何事も起こらなかった。この用途は何でしょう?
- ArduinoのA5ピン( GrblではZ-probe/Heightmap)もプルアップされていて、高さ検出の際にこれがLになったら刃物がワークに接触したと認識する。
- Z-probeはCandle右上ボタン群の下向き矢印みたいなボタンを押すと始まる。
- Height-mapはCandle右部分のheightmapメニューからCreateを押すと採取用設定が現れる。
- TRIOにはEMG信号という出力があり、スピンドルに過電流が流れたりするとL→Hに変化する。
一番上の 「TRIOのSPINDLE制御入力はLだと回転」というのがGrblの標準とは異なるのでconfig.hの下の行のコメント記号を外しました。
< // #define INVERT_SPINDLE_ENABLE_PIN
---
> #define INVERT_SPINDLE_ENABLE_PIN
またスピンドルの回転数をPWMで制御する事はTRIOのマニュアルを見る限り書かれておらず、当面はON/OFFだけで実行します。この為以下をコメントアウト。
< #define VARIABLE_SPINDLE
---
> // #define VARIABLE_SPINDLE
なおこのコメントをを外すとGrblは旧版との互換性の為、スピンドルイネーブル端子とZ-LIMIT端子の機能が入替わる(HかLかを切り替えるだけでなく、端子の割り当てまで一緒に変更してしまう)。入替わる前提で使ってもいいが将来的な互換性を考えると端子割り当ては標準のままにしたかったので、cpu_map.hの以下を変更しました。
68c68,69
< #define Z_LIMIT_BIT 3
---
> //#define Z_LIMIT_BIT 3
> #define Z_LIMIT_BIT 4
87c88,89
< #define SPINDLE_ENABLE_BIT 4
---
> // #define SPINDLE_ENABLE_BIT 4
> #define SPINDLE_ENABLE_BIT 3
ところでGrblのヘッダ類を書き換える場合は~/Arduino/libraries/grblの下にあるファイルを変更しなければなりません。最初普通に~/Arduino/grbl-master下のファイルを変更してコンパイルしても変更が反映されなかったので要注意です。
次に非常停止をスイッチをどうするか、以下を候補に考えています。
- ArduinoのReset端子をLに下げる。
- ArduinoのA0端子(Reset/Abort)をLに下げる。
- TRIOのイネーブル信号(チャージポンプ又はH/L)を使ってOFFにする。
なお非常停止は極力ノーマリONのスイッチにすべきです。ノーマリOFFを使ってしまうと接点が劣化していた場合に非常停止を押しても止まらないという事態が予想されます。Grbl標準はReset端子を使うにしてもA0端子を使うにしてもノーマリOFFが標準なのでA0端子の機能を逆転させる事にします。
もう一つ、TRIOからEMG(エマージェンシー)信号というのが出てきます。これはスピンドルモーターに過電流が流れた場合等にHになる信号なので、何とかGrblに伝えたいと思います。
という事でTRIOのEMG信号と非常停止スイッチを両方生かす為、次の様に配線する事にしました。Grblの設定でA0信号はHとLの意味を反転させ、正常時がL、異常時がHと認識する様に変更しています。
これでTRIOから出るEMG信号も非常停止スイッチも反映させる事ができます。
なおA0信号のHとLの意味を反転させるにはconfig.hに以下を追加します。
> #define INVERT_CONTROL_PIN_MASK ((1<<CONTROL_RESET_BIT))
以上で回路が決まりました。次に基板を作っていくのですが、折角なのでこのCNCを用いて基板を切削してみようと思っています。その為にはスピンドルに基板切削用刃物を取付ける方法を考えねばなりません。
・・・という事で次に続きます。